NHKの木曜時代劇、時代劇好きの私は結構見ている。ほとんどの作品は単発だが、慶次郎縁側日記ははシリーズ化され、ついに3シーズン目に突入。きっと人気があるのだろう。私はこの作品が最も好きである。なお、本作は北原亞以子の「慶次郎縁側日記シリーズ」を原作としている。
主役は元八丁堀同心の森口慶次郎(高橋英樹)。引退した今は根岸の寮番を飯炊きの左七(石橋蓮司)と共にしている。寮番といえど、元同心に出来ることといったらほとんど何もない。ほとんどの仕事を左七に任せて、ご隠居として居る様なものである。慶次郎は妻を亡くし、そして1シーズンの初めに三千代という娘を亡くしている。亡くなった三千代の許婚であった晃之助(比留間由哲)が養子となり森口家を継いでいる。そして晃之助は皐月(安達祐実)という妻を娶っている。2シーズン目に夫婦の間に子供も生まれた。
慶次郎は八丁堀同心で会った頃「仏の旦那」と呼ばれているほど寛容な男だった。義理や人情を重んじ、被害者にも下手人にも出来る限りの事をしてきた。だが、どれだけ心を砕いても、彼は無力であった。切なくなるほどに。隠居した今でも家のこと、左七のことをはじめ皆のことを思うが、どうしてやることもできない。しかし、それでも彼は「もっと、もっと」と世俗に分け入り生きながらえながら無力であることを感じ続ける。
初回である今回のタイトルは「峠」、半ば正当防衛で人を殺してしまった男の話(どうも初回は衝撃的なものが多い)である。まだ慶次郎が八丁堀同心であった頃の話。峠越え途中の男の前に野盗が現れ、襲いかかる。男と野盗がもみ合いになっていると、足を滑らせて2人は谷に落ちそうになる。間一髪、落ちる途中にあった木につかまり助かるが、野盗が男の足につかまり「助けてくれー」と叫んでいる。しかし、男の手も大人2人分の重さを支える力は無く、このままでは2人とも助からない。思い切って野盗が持っていた鎌を足元に振るう。すると野盗は男の足に大きな傷を残し、絶叫と共に谷底へ落ちていった。
これは人通りのない峠での出来事。誰もこのことを知るものはいない。だが、人を殺したという事実は男の気持ちの中に残り、その恐怖から逃れることが出来ない。野盗が落ちていくときの叫び声を忘れることが出来ない。男は自分も死にたいと思うようになった。
その重荷から逃れるため、男は仏と呼ばれた同心に全てを伝える。そして慶次郎は男に向かってこう言う。「生きて償え」と。
男は自首し、島送りになった。島でも金があるやつ、権力があるやつは様々なことで優遇されていた。罪が重くなかったため、そこそこの期間で島から帰ったが、罪人と呼ばれ全く相手にしてくれない。長屋の連中からも「島帰り」と陰口をたたかれるばかり。自首した後、生きて得たものは何も無かった。その恨みから、男は隠居した慶次郎を襲う。
生物には生きたいという本能がある。だが、絶望や諦め、憎悪の果てに、生きる希望を人は持ちえるのか?「それでも生きて欲しい」という思いがこのシリーズの中で一貫している大きなテーマである。1シーズン目では、慶次郎は娘の三千代を死に追いやった男を殺そうとした。だが、慶次郎にはそれはできなかった。2シーズン目ではその娘を死に追いやった男が病に倒れる。恨むべき目標を失う。そして、慶次郎と晃之助のお手先の辰吉と、三千代を死に追いやった男の娘との結婚を許した。慶次郎は絶望、諦め、憎悪を全て許した。
何か大きな流れの中で、人は本当に無力である。不条理な中、流れ流れて翻弄されながら生きていく。甘っちょろい勧善懲悪な話ではなく、何か心に残る。また来週が楽しみである。


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