比較的売れている本なのでご存知の方も多いかと思う。筆者は城繁幸氏。『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』というベストセラー本を書いた一躍有名になった方だ。私も過去、富士通に在籍していた時期もあり、実に興味深く読めた。
本書は「日本企業の成長を支えてきた」といっても過言ではない企業の「年功序列」というシステムが、現在の若者たちにどのような影響を与えているか、またその反動としてどのようなことが起きているか、起こさなくてはいけないかが述べられている。
多くの企業が「成果主義」というシステムを取り入れている。しかし、同じ成果主義でも会社が変わればその影響の度合いも大きく変わる。表面的には成果主義を謳っても、内面は年功序列といった企業もあるだろう。かつて、本当に企業が年功序列で賃金を保証していた頃があった。上司たちを見ているとだいたい、何歳でどういった職についていればどの程度の年収になるかが予想できたという。そして自分も同じレールを順番どおりに上がっていくことが保障されていた。だから、若いうちに特定のスキルが付くわけでもない、単純で面白みの無い作業であっても従事することが出来た。将来が保障されているから。だが、そのような将来は既に約束できない。狡猾に、あたかもそれがあるよう、会社や政治を動かしている50代以上が若者に見せる幻想に過ぎない。ずっと続いているはずである「出世と昇給のレール」は、いつ途絶えてもおかしくは無い。しかし、人はそれが永遠に続いているように思ってしまう。だから、マイホームのローンを30年間かけることができるのである。ローン、結婚、子供をはじめとした扶養家族の増加と、収入が保証されないとどうにもならないことが世の中にはたくさんある。それを、定期昇給があるレールの上に乗せて考えることは、非常に大きなリスクであると筆者は論じている。
私は、はじめに就職した企業で4年間働き、結構勝手気ままさせてもらったにも関わらず、転職した。まだ「第二新卒」という言葉が無かった頃である。私はその当時、どうしてもやりたい仕事があり、退職した。入社前の学生の頃、ここまで当時の会社でいろいろなことを経験できるとは思わなかった位で、非常に感謝している。しかし、多くの大企業において私のように興味のある仕事に就けることは非常に稀なようである。今はインターネットの普及で就職活動も非常にオープンになっており、応募する学生も「自分の持つ専門性をこの職場なら活かせるのではないか?」と、企業に対して期待している面が非常に強くなっているように思われる。しかし、企業側がその熱意にこたえることが出来ないことで、両者のミスマッチが起こる。そのため、より専門性が活かせるような企業へ転職するような人材が非常に多いという。企業の人事側から見れば「最近の若者は我慢できず、根性が無い」というように見られてしまう。しかし、我慢や根性が出来るというのは、明確な将来への希望がある場合であればそうかもしれないが、将来どうなるかわからないという状況下では、この人事の意見を受け入れることは私には出来ない。
ところで「労働組合が強い国は若者が失業する」という話が本書にて述べられている。一見すると全く逆なのではないかと思われるのだが、理由はこういうわけらしい。労働者の雇用や賃金が保護されるのは良いことだが、それと同時に「先に企業に入社した人の既得権の保護」が最優先される。つまり、若者が保護されるのは順番からすると最後で、実際に保護の対象となりえない場合があるということである。なるほどと思ったが、若い労働力が必要な仕事(第一線の仕事だが、大して面白いものではない)というのも確実に存在しており、若者を見捨てた企業はそうした仕事を誰にさせているのかという点が気になってくる。誰が電話番をしたりするのか?そこで登場するのが、派遣社員である。1999年の派遣法改正で一般的な企業現場のどこにでも派遣できるようになった(さらに2002年の法改正では製造現場への派遣も許され、事実上、業種による派遣の不可というのはなくなったと考えてよい)。これは経済界からの圧力があったと見て良いだろう。そしてものすごいスピードで人材派遣会社は増加し、派遣労働者数は1998年には50万人であったが、2003年には200万人を超えている。彼らの平均年収は300万円前後で(子供が産めないのも納得できる)、同世代の収入に対して70%程度である。ここで浮いた30%は、最終的には上の世代の退職金にでも消えていくのだろう。こうして若者たちにツケを回し続けているのが、現在の産業界の実情である。しかし、2007年問題のように若手を派遣で補ったために「技術継承をする相手が居ない」という問題に直面し、多少考えは変わってきているようである。
しかし、私たちはなぜ働くのだろうか?生活するのにお金は必要である。しかし、そのお金を稼ぐだけのために貴重な時間を切り売りしているのだろうか?常々考えているこの疑問が、本書を読んで強く湧き上がってきた。何十年も同じようなことを繰り返すことが出来るその忍耐力の強さには実に頭が下がる。今、自分がしている仕事としたい仕事とがベストマッチしているかといえば、残念ながらそうではない。だが「自分の成長のために会社を如何様にも使ってくれ」という、社長をはじめとした上司たちの考えに対しては強い共感を覚える。「やりたい事業がまだ無いなら、会社でやればいい」という感じである。いつか、自分の会社の中で実現させたいものである。
企業の上層部も、経団連も、マスメディアをコントロールする者も、そして政治家も50才を過ぎた方たちばかりである。特に政治家は、若者の投票率の少なさのためか、年寄りに有利になるような公約以外掲げようとはしない。こうなってしまった現実には、私たちが政治や経済、自分のみの処し方についてあまりにも無頓着であったことが無関係ではない。私たちの世代には様々なリスクが存在している。これらを叡智をもって対処しながら「生きていくのが辛い」ような世の中を改めるよう、少しずつ変えていくしかない。せめて投票くらいは行かないとね。


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