中島らも
「さらに明るい悩み相談室」&「ますます明るい悩み相談室」

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かなりのスローペースで読み続けている「明るい悩み相談室」シリーズ。本書はシリーズ中3冊目と4冊目にあたる。世の中、変わった人は本当にたくさん居るものである。この悩みの回答内容が後の中島らもの作品の中に組み込まれていたりするので、氏のファンとしてはそうした発見もこの本を読む楽しみになっている。
多くの難問珍問のうち、個人的に気に入った質問を一つ「ますます明るい悩み相談室」から紹介したい。


悩み:傍観できぬ逆効果マラソンおじさん
クラブの朝錬で六時前に学校に行くと、学校の前の道路の車道の端を「後ろ向きで」マラソンするおじさんをいつも見かけます。彼は必ず某清涼飲料水を右手に握り、それをちびりちびりやりながら後ろ向きマラソンをしているのです。ところが最近、その某清涼飲料水は体に悪い、ということを聞きました。六時といえば外はまだ暗く寒いのです。そんな中での健康づくりが逆効果かもしれないと思うと胸が痛みます。私はこのまま傍観してよいのでしょうか。

(新潟・「う」だ。・20歳)

回答:
桂文珍さんに「健康のためなら死んでもいい!」という名言がありますが、このおじさんなどはまさにその典型なのではないでしょうか。清涼飲料水うんぬんよりも、むしろ「後ろ向きに走る」という点が「命知らずの健康中毒」という感じがします。後ろ向きに走るというのは反射神経や平衡感覚を鍛えるためのトレーニング方法なのだそうです。しかし、いくら早朝とはいえ、路上でこれをやるというのはやはり命知らずです。牛乳や新聞の配達車、ゴミ収集車などに衝突したらおじさんのせっかくの「健康」はどうなるのでしょうか。僕は今の日本の「健康神話」というのは一種のマスヒステリアだと思っています。この神話のせいで、人は「健康でない自分」に対してせっせとストレスを生産しているのです。「体に悪い」嗜好品を断つことによって起こるストレス、不健康に対する強迫観念がもたらすストレス、これらの方がよっぽど体に悪いのではないでしょうか。「絶対的健康状態」という幻想を追って、右往左往していると、それだけで一生が終わってしまいます。精神状態は疑心暗鬼の塊になるか、もしくは狂信状態になるかのどちらかです。
たとえばジョギングだって、やりすぎて心臓麻痺を起こすケースが問題になっています。また、「ランナーズ・ハイ」という現象があります。これは運動中に脳内でβエンドルフィンという麻薬物質が分泌され、これが神経を刺激するので恍惚となるのです。エンドルフィンは、モルヒネによく似た分子構造を持っています。外からの「不自然な」物質を拒絶しても、脳内では麻薬中毒者と同じような反応が起こっているわけです。「自然」とか「健康」を絶対的に追うならば人はもう「健康のために死ぬ」しかないのかもしれません。だからおじさんは後ろ向きに命がけで走っているのでしょう。


先日起きた「あるある大辞典 納豆ダイエット実験結果偽造」事件の前後のスーパーの様子を見たりすると、マスヒステリアであると大いに感じられる。私は健康のために食事をするということは全くしていない。食べたいものを食べ、飲みたいものを飲んでいる。度が過ぎなければ、これが一番「心」と「体」に良いと思っている。
しかし「健康のためなら死んでもいい!」という言葉は、まさに名言である。

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