上野正彦 「死体は知っている」

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私は刑事ドラマが好きなものでよく視聴するのだが(最近、帰りが遅くて見られないことが多いけど)ドラマを見るたびに警察の科捜研、鑑識、監察医の優秀さをよく感じる。これらの組織に重点をおいた海外ドラマ「CSI 科学捜査班」では、さらに進んだ現代的犯罪捜査を見せられ、そのたびに関心してしまう。ちょっとした事件の特徴から犯人を特定する技術を見せられると、とてもじゃないが犯罪は隠し通せないものだという気になってくる。少なからず犯罪の抑止力になっていると私は思う。

本書は東京都の監察医を30年間務めた法医学者が書いた本である。日本には法医学を専門とする医者は非常に少ない。東京、大阪を初めとした五大都市以外には専門の監察医は存在せず臨床医が検死を行っているわけだが、出血の仕方、遺体の損傷、生活反応…等の情報から死因や死後経過時間の特定をするには法医学の知識や経験が必要になる。これらが適切に行われているとは言えないと警鐘している。

3章構成になっており、1章では過去に経験したちょっと特異な検死事例が紹介されている。個人的興味深かったのは、捨て児(遺棄死胎)の話。「出生」という定義が法によって異なっているとは初めて知った。刑法では「一部露出説」つまり、胎児が母体から一部でも露出認められる時出生とみなし、民法では「全部露出説」胎児が母体から完全に露出分離した時を出生とする。医学では「独立呼吸説」胎児が生活反応、つまり呼吸をしたときに出生とみなすのである。堕胎罪か殺人罪かは刑法をもって裁かれるため、母体の中で死にいたった場合には母親は堕胎罪となり、一部でも露出した場合は殺人罪となる。これを特定するのは非常に難しいが、前者に比べて後者は刑事罰も重いものとなるため、見極めが非常に重要である。
2章は監察医が主人公の短編小説で構成されている。筆者は監察医を退職後、観察時代に経験した事柄を元に小説を書いている。医者の書く本というとあまり面白いイメージは無いが、これが中々面白い。
3章では監察医の専門領域とその重要性について述べられている。めった差しの事件をメディアは「残忍」と表現するが、これらの刺し傷には生活反応が無い(つまり、死後に傷つけられた)ことが多く、これは犯人に止めを刺したにも関わらず、不安でならないという心理状態を表す。残忍というよりも恐怖感による行動である場合が多いと筆者は指摘する。

実に面白い内容なのだが、些か執筆から時間が経っているために(初版が1994年)現代でもそうなのだろうか?と思わせられる内容も見られた(バラバラ死体を殺人を隠蔽することを目的としていると記載しているが、最近では死体をわざと目立つような所に置くようなパターンが多発している)。
しかし、これだけ前の内容であっても、私は事件を起こしたら警察からは逃げられないような気持ちにさせられた。現代であれば特にDNA鑑定が飛躍的に進歩しているため、ほんのちょっとした証拠からも足がついてしまいそうである。悪いことは出来ないものである。

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