2010年問題

前回までETA社のエボーシュの紹介等をしてきた。スイスの時計産業がどれだけETAのお世話になっているかを理解いただけたかと思う。スイス製の80%を超す時計に今やETAのムーブメントが搭載されている。

2002年、スウォッチグループ会長、ニコラス・G・ハイエック氏は「2003年から他社へのムーブメント供給を停止する」と発表。その理由は「ETAムーブメントを使うことでスイスの時計メーカーがイノベーションしなくなった。そのため、ETAムーブメントの供給を止めることとした」としている。しかし、実際は台頭しつつあるリシュモングループへの牽制であると考えられる。スウォッチグループとしては、ほかのグループがETAムーブメントを使って利益を得ることに我慢ならなかったのだろう。
この処置に驚いたETAの上客であるセリタ社、ラ・ジュウ・ペレ社は、供給停止は不当として、スイスの独占禁止法調停委員会(COMCO)に提訴。その裁定によりETAのムーブメント供給停止は回避された。しかし、これに裁定に対するスウォッチグループの回答は2008年に複雑時計用エボーシュの供給停止、2010年にはムーブメントの供給量を25%まで削減、2011年には独立企業の顧客にのみ完成ムーブメントを提供することを発表。結局、多くのメーカーが望んでいた「部品単位での供給」は完全に絶たれることになった。これがETAの2010年問題といわれるものの全貌である。

このような発表を受け、各社は自社ムーブメントの開発や、ジェネリック・プロダクト(リプロダクト)製品の開発に乗り出した。すでにCal.2892や7750の特許は切れているため、ETAの部品を使わずに同等のムーブメントを開発することはできるのである。
自社ムーブメント開発の動きはJaeger-Le Coultre,Ebel,IWC,Mourice Lacroixあたりから実際に動きが見てとれる。Cal.7750を使用せず、垂直クラッチやロングパワーリザーブのための最新技術が惜しげなく投入されたムーブメントの開発が急ピッチで行われている。しかし、これらの開発にかかった費用は製品に上乗せされるため、同メーカーとは思えないような価格設定がされている製品が少なくはない。これは私のように「金持ちじゃない時計好き」には非常に頭が痛い問題である。

元々の「ETAを使う理由」の重要な柱である「機械式時計でも価格を上げることなく市場に出せる」という点が見失われてしまった。
SEIKOやシチズンはクォーツムーブメントの提供はかなり広範囲に行っているものの、機械式ムーブメントの提供を行っていない。これは一度「機械式を捨てた」という歴史があるからだろうか?高品質な製品を作れるメーカーがエボーシュメーカーを担ってくれると、ユーザーとしては一安心なのだが…

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