千代田区図書館の蔵書を見ていたら、面白い本を発見した。「やさしい時計学(2)」。昭和30年7月10日初版の書籍である。
この本は機械式時計の基本的な構造、メンテナンス手法、各種公式などが記載された書籍である。まだ職人の世界は師弟関係が構成されており、師匠の見よう見まねで技術を盗みつつ習得するというのが一般的だった時代。そのような時代の中で、時計技術者は待ったなしで必要にもかかわらず、しっかりとした時計の教科書といえる書籍は存在していなかったがために作られたという本書。(2)ということは(1)も存在するのだろうが、残念ながら千代田区図書館にはなかった。
ちょっと面白いと思ったのは定価の記載である。定価260円、地方定価265円とある。物流の関係で、中央と地方で書籍の値段が違う時代があったのだろう。こういうのを見ると、現代ってのは恵まれているものだなぁと思う。どんな書籍でもネット上で購入することができる。そうした点では、中央と地方の差というのは限りなく縮まっている。
ちなみに、昭和30年(1955年)の大卒の初任給は\11,000ほど。現在の1/20位だろうか?そうすると本書は…5,200円。結構な高級書だったのか?
昭和30年は時計と言えば、機械式である(クォーツはこの14年後に登場する)。そして驚くべきは、基本的な構造においては現在の機械式時計と全くと言っていいほど同じことである。もちろん、新素材が誕生したり、ベアリングの構造が変わったり、オイルも高性能なものが誕生したが、そうした点を除けば、香箱の構造も、輪列も、脱進機の構造も全て同じ。長い間培われてきた機械技術というものに驚きを隠せなかった。この本をもとに習得した技術も、機械式時計に対してであれば十分に通用する。
当時の機械式時計の価格と寿命はどれほどのものであったか?本書に下記のような記述がある。
また実際にも5年から7年くらいが時計の性能もよく調子もよく動くのであります。
(中略)
もっとも上にのべた5年とか7年というのは並級の時計の話であります。数万円くらいの時計で10年くらい、拾数万円の時計で15年くらいに時計の寿命をおさえるのがいいところではないでしょうか。
これからの皆さんはもし時計に対し、それ相当の性能で使うものとすれば、ある程度つかったらまた新しくいい性能を発揮する時計に買い替えるくらいの心構えをしていただきたいと思います。時計だってそんなに長く酷使してはかわいそうです。だんだん弱りもいたみもします。時計も生き物です。
3000円~5000円と言うと、先ほどの初任給換算で言うと、現在の60,000~100,000円位になるだろうか?クォーツ化により腕時計はものすごく安く製造でき、高耐久性を得たが、機械式時計時計ならこのくらいの値段が妥当であろう。寿命に関しては…機械式時計とはいえ、7年で逝ってしまう時計というのは少なくなったが、これは製造技術の向上によるところが大きいだろう。
しかし、十数万円の時計時計でも15年位か…これを読んで、アンティーク時計には手を出せないなぁとしみじみ思わされた。
本書の最終章は、新型時計の技術紹介である。ここで挙げられているのは
- 中三針時計
- カレンダー時計
- 自動巻時計
- 耐振時計
私が生まれた時代の時計はほとんど中三針時計であったため、特に目新しいものとは思っていなかった。しかし、多くの懐中時計がスモールセコンドで秒表示をしているように、時分針と同軸に秒針を配置するのは結構手間であることが本書でよくわかった。現在は意図的にクラシカルな雰囲気を醸し出すためにスモールセコンドを採用している時計が多い。
自動巻機構についても比較的詳しく本書では述べられている。香箱のスリップ機構、両方向巻の原理など…ためになりました。
本書を読んで、機械式時計を分解したくなってきた。そしてうっかり、腕時計のメンテナンスキットを購入してしまった(笑)。
ジャンク品でもオークションで落札して、改めて構造を直に見てみたい。


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