
現在、様々な事情によりテレビでの放送はもちろん、DVDやコミックの販売も不可となってしまっている作品が「封印」されてしまった理由についての詳細なルポである「封印作品の謎」の第二作である。
今回取り上げているのは『キャンディキャンディ』、『ジャングル黒べえ』、『オバケのQ太郎』、『サンダーマスク』の4作品。
『キャンディ キャンディ』は1976年10月1日~79年2月2日までテレビアニメで放送され、雑誌「なかよし」にて1975年5月~79年3月まで連載された。原作者である「水木杏子」氏と作画を担当した「いがらしゆみこ」氏が法廷を舞台に争っている様子をメディアが取り上げているからご存知な方も多いと思う。いがらし氏が水木氏の許可無くキャンディのキャラクターを使ったビジネスを始めてしまったことがきっかけで、控訴、上告と進み、2001年10月に最高裁で「原作者と漫画家には同一の権利があり、合意が無いまま原画の作成や複製は出来ない」との判決が出ている。しかし、いがらし氏はアジアでのキャラクタービジネスを相変わらず続け、そして水木氏に謝罪や情報開示を全くしていない。このように権利がグレーな状態ではコミックスの再販、テレビの再放送やDVD化といった展開はできず、封印されたままになっている。
「”キャンディ・キャンディ”のストーリーって本当にすごいわよ。メロドラマの典型よね。記憶喪失になっちゃったり三角関係。男性たちが、1人の女性を好きになったり…。メロドラマに出てくる全てが”キャンディ・キャンディ”には集約されているのよ」(週刊新潮04年8月12日・19日合併号 新潮社)
これは『冬のソナタ』の脚本家の二人のインタビューである。キャンディ・キャンディを見ていた年齢層(私よりは5歳以上上だろう)が冬ソナにはまるのも理解できる。そして、こうした法廷での争いになるまでの間、幾度と無く再放送が繰り返され、私と同年代の女性やそれ以下であってもオープニングテーマを歌えるほどでは無いかと思う。つまり、それほどまでに普通に見ることが出来た作品が、今はみることが出来なくなっているのである。
本書の作者である安藤氏は大岡越前の「二人の母親」を例にとってこう説明している。
「原作者と作画担当の二人の母が子供の腕を引っ張って、子供を引き裂いてしまった」と。実にうまい例えである。
『ジャングル黒べえ』は藤子・F・不二雄の作品であり、テレビアニメでは1973年3月2日~9月28日まで、漫画では1973年3月~74年1月まで連載された。
恐らく多くの方が「ちびくろさんぼ」が封印作品にされてしまったことはご存知かと思う。1988年の末「黒人差別をなくす会」なる組織が「黒人差別を助長する作品」として各出版社へ抗議をした。しかし2005年4月に瑞雲舎より再販されるようになり、かなりの部数が販売されている。
ジャングル黒べえも実は同じような経緯で封印に至ったのだが、実際はどうも直接抗議を受けたのではないらしい。後述する『オバケのQ太郎』の抗議を受け、出版社が自主的に発行を中止、回収したそうである。
ちびくろさんぼという名作を封印し、タカラやカルピス社のロゴを変えてしまうほどの影響力があることから「黒人差別をなくす会」という組織は非常に規模の大きな圧力団体なのかと思いきや、実は1家3人によって構成される組織であった。ちびくろさんぼ再販に際して行ったインタビューがここに掲載されているが、何だかトンチンカンな回答をしているような気がしてならない。
『オバケのQ太郎』は藤子不二雄の作品で、テレビアニメで1965年8月29日~67年6月28日(オバケのQ太郎)、1971年9月1日~72年12月27日(新オバケのQ太郎)、1985年4月1日~87年3月29日(オバケのQ太郎(新))の3回に渡って放映され、様々な雑誌で1964年~73年にわたって掲載されている。テレビアニメがかなり長期にわたって放映されているため、かなり広い年齢層で身近に感じられるアニメでは無いかと思う。私もオバケのQ太郎(新)をリアルタイムで見ていた。私の妻もオバQを子供の頃見ていたというのでテーマ曲について聞いてみたのだが、私が知っているものとは違った。妻が見ていたのはどうも新オバケのQ太郎だったようである(笑)。
本作が封印された理由はいくつか噂が乱れ飛んでいる状況で、良くわからなかった。筆者が取材中に聞いた6つの理由を挙げると
- 黒人描写説
「黒人差別をなくす会」が黒人描写について差別的だと抗議したため。具他的には「黒人のオバケが登場するため」、「人肉食を思わせる話がある」、「Q太郎の唇がぶ厚く黒人を連想させる」、「足が黒いため黒人が入っていると思わされる」など。 - 権利問題説A
オバQは藤子不二雄の2人のアニメ会社「スタジオ・ゼロ」の合作。そのため漫画家の石ノ森章太郎などの複数人物が関わっているため、著作権に関して問題が発生した。 - 権利問題説B
オバQは藤子・F・不二雄(藤本弘)と藤子不二雄A(我孫子素雄)の合作。1987年にコンビを解消して著作権に関する問題が発生した。 - 差別表現説
連載当時は普通に使われていた「きちがい」、「こじき」など、現在では差別表現とされている言葉を含んでいるため。 - 教育問題説
のび太の保護者的な「ドラえもん」と異なり、無芸大食で遊んでばかりいるのが教育上良くないため。 - ニーズ説
1960~70年代に作られた古臭い作品で、今の時代にそぐわない。そのため出版しても需要が見込めず、出版社が出さない。
一つずつ潰していくと…
1の抗議は実際にあったが、そうであれば指摘があった話だけを封印すれば良いだけであり、オバQ全てを封印している理由にはならない。4,5は実際に抗議を受けた事実は無いようで、推測に過ぎないとのこと。6は、オバQ以上に古い作品が出版され続けている。知名度が高い本作が出版されない理由にはならない。有力視されたのは2と3の理由であった。
「スタジオ・ゼロ」とは藤子不二雄や石ノ森章太郎らが作ったアニメ制作会社である。組織として「動画部」と「雑誌部」を持ち、オバQがスタジオ・ゼロ雑誌部の初の仕事であった。所属する漫画家が特定のキャラクターを専任で描く分業体制をとっていたため、雑誌掲載時のクレジットも「藤子不二雄とスタジオ・ゼロ」とされた。だが、同じような体制をとって制作された藤子不二雄Aの「サンスケ」は封印されること無く今も販売されていること、そして単行本は藤子不二雄名義で問題なく過去に発売されてきたので、突然スタジオ・ゼロとの問題で発売禁止になったとは考えにくい。
そうすると残る説は3だけになる。オバQの増刷が中止されたのが1988年。つまり、コンビ解消直後である。また、オバQは藤子不二雄の最後の合作であった。藤子不二雄の名義は使っているものの、お互いの作風が変わってしまっていたためにコンビ解消のだいぶ前から「合作」形式での制作はやめていたのである。よってオバQの単行本を作成するには藤子・F・不二雄と藤子不二雄A双方のクレジットが必要となる。既に故人となっている藤子・F・不二雄サイドに問題が…?結果として封印の核心には迫れなかったものの、かなり近いところまで判明したその理由には一読の価値ありである。
『サンダーマスク』はテレビ特撮として1972年10月3日~73年3月27日に放映され、テレビ放映後に手塚治虫が漫画を書いている(原作というわけではなく、話も違う)。比較的マイナーな特撮作品も今はDVD化されているものの、この作品は94年に3話だけされて以降、全く再放送されていない。放送用のポジフィルムの所在が一転二転としており、また映像権利の帰属先がどこかわからないという状況だという。この中にガンダムシリーズで有名な創通が関係しており、70年代の放映権管理のいい加減さが浮き彫りになっている。
子供の頃、空気のように馴染んだ存在…いつそれが居なくなったのかはわからないけれど、そのことを思い出しそしてもう出会えないと知る。すると急に寂しいような思いがしてくる。私にとってはオバケのQ太郎がまさにそんな作品だった(封印作品の謎1、2で採り上げられた作品で共にここまで思い入れがあったものは無かった)。Q太郎は消えるのが得意であったが、消えたまま姿を現すことが出来なくなってしまった。ドラえもんは声優も一新されて今もなお放送され続けているのに…
表現への批判に対して真っ向から考え抜かず、ただ発売禁止としてしまった出版社。そして、差別される対象でもない第三者が偽善的に行った表現への批判。双方に対して強い憤りを感じずには居られない。